2007年 02月 02日 ( 1 )

あなたと出会わなかったら・・・(1)


 あと、もう少し。
 
 もう少しで、あなたの心に届きそうな気がするのに、
 
 あなたは私より、とても遠い。
  
 触れてみたいと伸ばしかけた手は、
 
 あなたに届かずに、宙を掻いた。



 あなたと出会わなければ良かった。
 
 こんな思いをするくらいなら、
 
 あなたと出会わなければ良かった。
 
 幼い頃、私のそばで笑っていたあなたの横顔は、もう私のそばにはなくて。
 
 昔見たあの幻影をずっとずっと追いかけている。



 もし、あなたと出会わなかったら、こんな思いはしなかったのか?
 
 私は自分に問いかける。
 
 それでも、私はあなたに会うことを、きっと選んでしまうのだろう。



 
あなたと出会わなかったら・・・。





 1
 
「真央、何ぼんやりしてんの?昼休み終わっちゃうよ。もう。いつまでお弁当食べてんのよ」

「へ・・・?」


 気がついたら、いつも彼女がそばにいる。


「箸が動いてない。玉子焼きが泣いてるぞ」


 美紀が、自分の箸で私の弁当箱の蓋を叩いた。


「ごめん、何かボーっとしてた」
「どうしたのよ、もう。何で真央が謝るの?」
「・・・うん。そうだよね。何か、変だな。・・・夢を見たからかな」
「・・・夢?いやな夢でも見たの?」
「ううん、違うよ。上手く言えないけど、懐かしい夢だったんだ」


 夢の中には、彼が出てきた。私は今よりも幼くて、彼の前ではいつもそうだった様に、聞き分けもなく、泣いていた。


「ふ~ん。でも、最近の真央って、ちょっと変だよ。いつも心ここにあらずって言うか、見えない誰か見てるみたいに、いつもぼんやりしているし」
「やだ。ほんとに?」
「そうだよ。もう、しっかりしてよね。ここに、何か悪い虫でもついてるんじゃない?」


 怒ったような声を作って、美紀は私のおでこをつんつん突付いた。私は慌てて額をかばう。美紀が、私を見て、いつもの笑顔を浮かべてくれた。「もう、しょうがないわねぇ」そんな感じ。彼女にとって、私は多分、妹のような存在なのだ。

「五時間目、情報の授業だからね。遅れちゃ駄目だよ。あたし、用事があるから先に行くけど、早くお弁当食べるんだよ。わかった?」

「うん。わかってるよ」


 去って行く彼女を見送ると、私はまた、今朝見た夢について考え始めていた。彼の背中が、私の心の中から消えてくれない。



 さよならを言うときの、少しさびしそうな瞳が好きだった。
 
 泣きじゃくる私を、必死で宥めようとする彼の笑顔が、私の宝物だった。
 
 もう、あの笑顔が私に向けられないってことを考えると、
 
 私はただ悲しくなって、子どもみたいに泣きたくなるのに、
 
 私のことを慰めてくれる人は、もう私のそばにはいない。



 私は弁当の蓋を閉め、窓の外に広がる青を眺める。

 彼も、見ているのだろうか。そんなことも考える。



 あなたと出会わなかったら・・・。



 そんなことを思ったら、ただ無性に切なくなった。
 
 
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by sinsekaiheto | 2007-02-02 12:34 | 小説