2007年 02月 11日 ( 1 )

あなたと出会わなかったら・・・(完)


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 彼のお葬式には、同学年の生徒が、たくさんたくさん、出席していた。

 私と彼と、同じクラスだった生徒もいて、あの教室の延長線上にここはあるのだ、そんなことを考えて、私はクラスメートに囲まれて笑っている、いつもの彼を目で探した。止めることなど、できなかった。


 彼がいない、どうしても、みつけられない。なんで?今度からは、ちゃんとするって、私に言ってくれたじゃん。うそつき。嫌だよ、どうしてどこにもいないのよ、勇気!



 彼のいない、沈んだクラスメートの雰囲気は、もう、我慢ができなかった。彼と仲の良かった女の子たちが、たくさんたくさん、泣いていた。隣にいた、美紀も、泣いていた。私を一人にしてはいけない、と思ったのか、美紀はずっと私の傍にいてくれた。


「子どもを、助けたんだって」

 涙も拭かずに、美紀が言う。

「お母さんを見つけて、走り出した子どもが車に轢かれそうになって、それで、事故にあったんだって・・・」

 落ち着いた声だった。それでも、美紀は泣いているのだ。美紀の涙を、私は今、始めて見た。

「勇気って、そういうところ、あったよ。何も、考えられなくなるんだね。馬鹿だよ、勇気は。でも、そこがすごく、すごく、優しかった・・・」

 胸が、熱くなった。


「ねえ、真央。見てあげてよ。勇気の顔。すごく、優しい顔、してるから」


 私は、頷いた。ふらふらと、歩いていって、勇気が眠っている棺の中を、覗き込んだ。


 腕を組まされて、本当の仏様みたいだ。ねぇ、勇気。またいつもの悪ふざけなんでしょう?そうやって、急に起き上がって、またわたしのことをおどろかせようって、チャンスをうかがっているだけなんだよね?ねぇ、答えてよ、勇気。死んじゃったなんて、嘘だって、言ってよ!


 私は、勇気の顔に掛かっている、白い布を、取った。


 勇気の顔は、どこから溢れ出してきたんだろう、涙の中に、滲んでゆれていた。


「ゆうきっっっ・・・」


 ああ、本当に勇気は、死んでしまったのか。唐突にそう理解して、涙が、溢れ出してきた。

 もう、限界だ。私は、くるりと踵を返した。


「ちょっと、真央?」


 美紀の、驚いた声が聞こえた。でも、私は振り向かなかった。振り向かないで、走り続けた。


*     *


 一人で、泣きたかったのかな。また、私はここに、戻ってきたのだった。


 いつかの夢で見た、あの夕陽と、同じ赤が、そこにあった。


 小学校も、
 私の家も、勇気の家も。
 私の通った幼稚園も、
 懐かしい場所が、全部、そのまま、残っていた。

 赤い光を受け止めて、輝いていた。


 勇気。あの頃みたいに、また、あんたと、この夕陽、見たいよ。だって、こんなにもきれいなんだよ。勇気。戻ってきてよ。戻ってきて、勇気。


 赤い夕陽は、何も語ってはくれなかった。私は、ただただ、涙を流した。ぼんやりと視界が揺れることも気にせずに。涙をぬぐうことも、しなかった。


 この空は、あの頃の空と、一体どこが違うのだろう。そんなことを考えては、涙を流した。涙を流したから、悲しくなった。


勇気。私たち、もう少し大人だったらさ、きっと、もっとうまくやれたよね。すこしだけ、子どもすぎたよね。つまらないことで喧嘩して、つまらないことで、泣き出して。でも、あの頃のあんたがいなかったなら、今の私って、・・・いないんだよね。

もう戻らない日々がある。

大切な人も、手放したくない時間も。

いつまでも私の中で眠ってる。


 今は、それでいいなんて言えないけれど、いつか、私の中で、彼が思い出に変わったら、少しだけ、笑うことだってできる気がする。


 ごめんね、勇気。助けれあげられなくって、ごめん。勇気の気持ちに、気付いてあげることができなくて、ごめん。私の気持ち、伝えることができなかったよ、それも、ごめん。


 勇気。いつだって、弱い私のことを、支え続けてくれていたよね。泣き出しそうな私に、いつだって手を差し出してくれたよね。ありがとう。伝えられなかったけど、ずっと、あなたのことが、好きでした。


 夕陽が、地平線の向こうへと、消えていく。
 頬を撫でる風が、冷たかった。

 勇気・・・。

 あなたと出会えて、私、本当に、よかったよ。


                            あなたと出会わなかったら  (完)

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by sinsekaiheto | 2007-02-11 06:33