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あなたと出会わなかったら・・・(3)


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 運命って、なんて残酷なんだろう。
 
 僕は時々、そんなつまらないことを考える。

 昨日の次に今日があって、今日の次に明日がある。

 そんな当たり前の毎日を、ずっと過ごしていたはずなのに。

 君は僕の前から離れていった。



 時々僕を見る悲しそうな瞳に気付き、

 その瞳に笑顔が映ることがないのだと思うと、少し悲しい。とても悲しい。

 最後に交わした言葉がなんだったのか、

 もう思い出すこともできなくなった。
 
 

 こんな思いをするくらいなら、あなたと出会わなければ良かった。

 もしあなたと出会わなかったら、こんな思いはしなくて良かったのだろうか。

 そうだとしても、僕はあなたと出会うことを、きっと選んでしまうのだろう。


 
あなたと出会わなかったら・・・。




*     *

 いつものバス停に、君はもう来ない。

 朝一番に、キミと挨拶を交わすことが、僕の日常だったのに。

 あの日から、何もかもが変わってしまった。


 
「おい、勇気。どうしたんだよ、こんなところで。昼休み、終わっちまうぜ。昼飯食べないのかよ」



 空にぽっかり浮かんでいる、白い雲。屋上の風。
 僕はごろりと身体を倒し、彼のほうへと目をやった。



「食欲、ないんだよ」
「なんだよ、それ」


 
 幸也は、馬鹿にしたように、へらへらっと笑った。

「美里が、お前のこと探してたぜ。一緒にお昼食べる約束してたのに、いなくなったって。勇気、お前なんでこんなところにいるんだよ」



 そんなことは、僕が聞きたい。ただ、美里と仲良く弁当を食べているような、そんな気分ではなかったのだ。


「お前さ、付き合う気がないんだったら、はっきりとそう言ったほうが絶対良いぜ。おまえが伸ばせば伸ばすほど、あいつだってどんどん傷ついていくんだからさ」

 僕は、小さくため息を吐いた。

「悪かったよ・・・」
「・・・ったく。俺に謝ったってしょうがないだろ」



 わかっている。そんなこと。本当は全部、僕が悪いのだ。なんだかんだと言って、彼女のせいにして、うだうだずるずると、過去のことを引きずっている自分が、悪いのだ。


 彼女の、困ったようなあの横顔が、心の中から消えてくれない。

「とにかく、ちゃんとあって話しをしろよ。手遅れになる前にさぁ」
「なぁ、幸也・・・」
「ああ、なんだよ?」
「もう、手遅れなのかな?」
「なに言ってるんだよ。手遅れになる前に、ちゃんと話し合えって・・・」


 
 もう遅いのかもしれない。

 今朝、彼女の瞳に会ったものが、後悔なんかじゃなかったのなら、

 他の、もっと他の光だったなら、

 僕にも、何かできることがあったのかもしれなかったのに。


 なぁ、真央。

 ごめん、ほんとごめん。

 謝ることぐらいしかできないけど、ごめん。



「なんだよ、勇気。お前、どうしたんだよ」

 チャイムの音が低く響いた。風に流されて、薄く引き延ばされて、どこかに紛れて消えてしまった。


 君は、泣いていたんだよな。

 慰めてやることも、肩を抱いてやることも、もうできない。

 つまらないドラマの話で盛り上がったり、夜遅くまで電話で話し込んだりすることも、もうできない。

 だから・・・。


 こんな思いをするくらいなら、



 あなたと出会わなければ良かった。


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by sinsekaiheto | 2007-02-04 06:11